アタかごの魅力は、素材(アタ)の艶やかな風合いだけでなく、職人の手仕事が生む「編み目の表情」にあります。アタは細く裂いた素材を湿らせながら締め上げて編み込みますが、このとき編み目の"出し方""締め方""浮かせ方"を変えることで、表面に模様(パターン)を表現できます。
アタかごで見られる模様の多くは、インドネシア各地で受け継がれてきた伝統布(テキスタイル)の文様文化とつながっています。たとえば、ろうけつ染め布のバティック(Batik)に着想を得た格子状の編み柄、金糸・銀糸の浮き織りで知られるソンケット(Songket)の「浮き模様」を編みで再現した柄などです。
代表的な模様の由来と見分けのポイントを、アタかごの編み柄としての特徴に落とし込みながらお伝えします。※同じ模様名でも、工房や職人によって"編み目の細かさ""陰影""立体感”が異なり、表情に個体差が出ます。
バティック柄の「格子の反復」が全体に面として見える
四角い網目が一定ピッチで続くバティック系の編み柄
バティック(Batik)は、布に蝋(ろう)で模様を描いて防染し、染め分けていく「ろうけつ染め」の技法、またはその技法で作られた布を指します。インドネシアでは衣装やサロン(腰布)などに広く用いられ、地域ごとに意匠や意味を持つ文様文化として発達してきました。
アタかごの世界で「バティック柄」と呼ばれるものは、バティック布そのものの図案をそのまま写すというより、“布の格子感・反復感”を連想させる編み柄を指すことが多いです。四角が連続する網目状の配置は、面として均一に広がるため、光の当たり方で陰影が出て、アタの艶と相性よく上品に見えます。
見分けのポイント
ソンケット柄の「浮き模様(立体感)」が全体に出ている
布(ソンケット)の金糸・銀糸の“浮き”を連想させる立体表現
模様部分が“盛り上がって見える”ソンケット系の編み
光の角度で柄が浮いて見えるソンケット系の凹凸表現
ソンケット(Songket)は、金糸・銀糸などを用いて模様部分を“浮かせる”ように織り出す、東南アジアの代表的な装飾布(浮き織り)です。表面に凹凸が生まれるため、光を受ける角度で表情が変わり、上質な立体感を感じられるのが特徴です。
アタかごの「ソンケット柄」は、この“浮き模様”の考え方を、編みの締め方や段差で再現したものです。模様部分がわずかに盛り上がって見えたり、陰影が強く出たりするため、同じ色味のアタでも、角度によって柄が現れたり消えたりするように見えます。
セメレケテ柄の「整った格子感」が出ている
布の格子文様(参考)- セメレケテの由来イメージ
semelekete(セメレケテ)は、感覚としては日本の市松模様に近い、整った格子の反復が印象的な柄です。工房によっては「同じ(同一・揃う)」といったニュアンスで説明されることもあり、規則性・均一さがデザインの核になります。
リリス柄の"流れ(斜線の反復)"が見える
布の筋状文様(参考)- 霧雨のような雰囲気
リリス(Liris)は、インドネシア語圏で「霧雨・細い雨(drizzle)」を連想させる言葉として説明されることが多く、模様としては“雨脚(あまあし)の流れ”や“霞(かすみ)”のような雰囲気を、反復する斜線や細かな筋で表現します。
アタかごのリリス柄は、編みの密度や段差で陰影を作り、面の中に「すっと流れる」表情を出すのが特徴です。同じリリスでも、斜線の角度・太さ・間隔によって印象が変わるため、工房や職人ごとにバリエーションが生まれやすい柄と言えます。
ディメンシ柄 - 図形が“立って見える”立体感
ディメンシ(Dimensi)は、名前の通り「立体感(ディメンション/奥行き)」を意識した幾何学模様として扱われることが多く、編みの“面”の中にコントラスト(凹凸や密度差)を作って、図形が浮いて見えるように構成されます。
アタかごのディメンシ柄は、上下や左右で対照的に配置したり、中心線を境に図形の向きを変えたりすることで、整った幾何学の中に視覚的な奥行きが生まれます。模様がはっきり出るため、シンプルな形状のかごでも存在感が出やすいのが特徴です。
バック中央の黒い菱形模様などに見られる黒い編み材は、乾燥すると黒く締まるアタの根(根元に近い繊維)を用いて表現されることがあります。染料で着色するのではなく、植物そのものの色差を活かして模様を出すため、自然素材らしい深みが出るのが特徴です。
黒模様(アタの根)- 黒い菱形がアクセントになる
黒材のアップ - 乾くと黒く締まるアタ根元繊維
一方で、根を含むアタ資源は採取量に限りがあり、需要が高まると供給が逼迫しやすいと言われます。製品として黒模様が入っている場合は、見た目のアクセントだけでなく、素材を余すことなく使う工夫の一つとして理解すると、背景が伝わりやすくなります。上の伝統的な模様のほかに新しい模様も出来てきています。
ジュプン(Djepun)は地域や文脈によって解釈が揺れることがありますが、アタかごの模様名としては「日本(Japan)」「富士山」を連想させるモチーフとして紹介されることが多い柄です。山形の反復や、頂を思わせるライン配置が特徴で、伝統柄の中に“新しい物語性”を持ち込んだデザインとして位置づけられます。
ジュプン柄 - 山形の反復(富士山モチーフ系)
ブンガ・クチル(Bunga kecil)は、インドネシア語で「小さな花(小花)」を意味します(bunga=花、kecil=小さい)。アタかごの模様名としては、花のモチーフを規則的に散らしたり、花弁のような形を繰り返したりして、やさしく華やかな印象を作る柄として用いられます。
ブンガ・クチル柄 - 小花モチーフが散る可憐
アタは素材色がナチュラルなため、花柄でも派手になりすぎず、陰影で上品に表情が出るのがポイントです。特に小物入れや蓋物など、近い距離で見るアイテムでは、細かな編みの意匠が映えます。
アタかごの模様名(バティック、ソンケット)は、インドネシアに古くから根づく「布(テキスタイル)の文様文化」から来ています。アタかごとは別ですが、インドネシアの代表的な布(テキスタイル)である バティック(Batik)、イカット(Ikat)、ソンケット(Songket) のご紹介をします。
バティックは、布に蝋(ろう)で模様を描き、染め分けていくろうけつ染め(蝋防染)の技法、またはその技法で作られた布を指します。蝋を置いた部分は染料をはじくため、染め上がったときに「染まらない線」が模様として残ります。
インドネシアでは衣装・サロン(腰布)などに広く用いられ、地域や場面(儀礼・日常)によって柄の意味合いが異なる“文化”として発達してきました。ジャワ島のバティックは特に有名で、日本では「ジャワ更紗(さらさ)」という呼び方で紹介されることもあります。
バティック布(参考)- 蝋で描いた線が残る文様
バティック布(参考)- 輪郭が比較的くっきり出る
アタかごの模様名としての「バティック」は・・・
イカットは、布になる前の糸を図案に合わせて縛り、染め分け、その糸を織って模様を出す技法です。語源として「縛る(結ぶ)」という意味で説明されることが多く、日本の絣(かすり)と同じ"先に糸を染める"系統に入ります。
ジャワ島の東側に点在するヌサテンガラ諸島(島々)では、イカットが衣類やサロンとして重要な位置づけを持ち、布の模様には意味が込められていると言われます。島ごと・部族ごとに柄が異なるため、文化的な「アイデンティティ」の役割を担ってきた、という語られ方もよくされます。
イカット布(参考)- 先染めで境界が“にじむ”見え方
イカット布(参考)- 幾何学の反復が強く出る例
ソンケットは、金糸・銀糸などの装飾糸を織り込み、模様部分を“浮かせる”ように表現する浮き織りの装飾布です。模様が平面の印刷ではなく"織りの立体"として現れるため、光の当たり方・見る角度によって表情が変わり、華やかさと高級感が出ます。
イカットが「糸を染めてから織る」技法だとすると、ソンケットは「織りの工程で模様を盛り上げる」技法で、方向性が異なります。
ソンケット布(参考)- 模様部分が“浮く”装飾織り
アタかごの模様名としての「ソンケット」は・・・